ドイツでは感染者数が再び増加して、いま買い物をするにもお店の入り口でワクチン接種証明のQRコードを見せることが必要です。これはフランクフルトの靴屋さんの前にあったもので、Futura で組まれています。これを見て考えたことを書きます。

今回の Type& では、10分間の質疑応答の中ではじゅうぶんな答えができなかったかもしれない、というご質問がもう一つありました。英文サインに関わる仕事に就きたいが何を勉強すればよいのか教えてください、というご質問だったと思います。ひょっとして、田代眞理さんと私の共著『英文サインのデザイン』をお読みになって共感された方なのかもしれません。
それに対しての私の答えでは、こんなことを言ったと思います。
「この本を一冊読めばわかるとか、どこそこで学んだから免許皆伝だとかいうことはないので幅広くいろんなものを見てください。できたら海外に行って、ちょっとした言葉のやりとりの難しさも体験してみましょう。」
英文サインを考えるとき、英語の情報を頼りに行動する人の身になるのが一番なのです。その人たちが普段どんな情報に囲まれているのか、情報を受けた人はどんな行動を取るのかを知る。そして、それがわかるまでには少しくらい失敗する場合もあるかもしれない、でもその失敗からの学びも貴重です。
そういった勉強のできる環境は、私の知る限り日本ではものすごく限られています。日本の中で言われる「海外では常識」がじつは海外でまったく通用しないなんていうこともあるんです。
欧文書体関係で、ちょっと前までこんな都市伝説がありました。「Futura はナチスと関わりの深い書体で、ドイツやイスラエルで使うのはタブー」。今の人は信じないかもしれませんが、2000年代初めまでは日本のデザイナーの一部ではその話は信じられていたらしいんです。もっともらしいエピソードまでついていました。「国際会議に出席したイスラエル代表が Futura を使った名札のせいで怒って退席した」とか、「ビデオデッキのマニュアルに Futura を使ったらイスラエルから大量に返品された」とか。その話、国際タイポグラフィ協会 で会ったイスラエル代表の人にしたら大笑いされました。ヨーロッパ各地とアメリカのデザイナーや活字のことをよく知る人たちにも問い合わせ、そんな事実はないことを連載記事の中で伝えました。その後、それをもっと広く知ってもらおうと、私の身の周りにあるFutura の例を写真に撮った このブログ も立ち上げています。
その都市伝説は2000年代の話だから、すでにインターネットは普及していたし海外旅行も夢のような話ではなかった。現地の人に確認を取ろうとすればできたはず、自分の目で見て確かめることもできたはず。自分の目で見たら、Futura がドイツで使えないとしたらコロナ感染予防のための立て札を Futura で組むだろうか、と考えることができる。
本に書いてあった「○○を使うのはタブー」の丸暗記だと自分の頭で判断できないんです。考え方の道筋をつかんでいくことが大切だと思います。道筋を教えてくれる講座が日本にもあるとしたら、このひとつ前の記事でも紹介した高岡昌生さんの欧文分科会です。