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根拠のあいまいなもう一つの伝説:Rotis について
Rotis(ローティス)という書体があります。Rotis Sans SerifRotis Semi SansRotis Semi SerifRotis Serifの4つからなるユニークな書体ファミリーです。これまで、特にぴったりの使用例とか見つからなかったので、このブログではここで初めて取り上げます。

自分が撮った写真のなかから探したら、私がここドイツで加入している健康保険のニュースレターの使用書体が2009年に Rotis から Frutiger Next に変わったときに比較のために残しておいたのがあった。奥が古いニュースレター、手前が2009年に新しくなったもの。
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同時に便せんもレイアウトを一新して、この保険会社のイメージは、「やや堅い雰囲気」だったのが「親しみやすい」に変わりました。

私は、それまでの便せんに Rotis でびっしりプリントアウトされた連絡のこういう文章を見るたびに「あんまり読みやすくないな」と感じていました。
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なので、その変更は私的には大歓迎だったのですが、記事としてとりあげるほどのことも無いかなと思って、そのままにしておきました。

ずいぶん前に、私が日本の講演で欧文書体について話をしたとき、講演のテーマでは取り上げていなかった Rotis について、会場の人から質問がありました。質問の途中で「Rotis に惚れ込んでそればかり使っているドイツの著名なデザイナー」(私は知らなかった)の話が入ってくるなどして長くなり、私には質問の内容がわからなくなってしまいました。

きちんとお答えしたいと思って、質問を繰り返していただいたのですが結局は2回聞き直してもわからず、会場の空気も気まずくなり、他にも質問の手が上がっていたので、時間を有効に使うため、最終的には Rotis のデザインから受ける個人的な感想をお話しして次の質問に移りました。会場に来ていた知人も、やはりその質問の意味が分からなかったと言っていました。とにかく、そのやりとりは長かったのですごく印象に残っているわけです。

そのあとで、日本のタイポグラフィ関係の書籍に書かれていた、Rotis のデザイナーのアイヒャー氏が「カソリックとプロテスタントの対立を取り除く目的」のようなことを述べたという話を読んだとき、その質問のことを思い返しました。あれは、Rotis のそういう逸話みたいなものを求められていたのか? だとすると、私のは期待外れな答えだったかもしれません。

そのあとで、そのコンセプトを私が知らなかっただけなのかと思って、アイヒャー氏の著作『Typografie』を同僚から借りて読んでも、Rotis のデザインについて宗教的な話はどこにも書かれていない。同僚にも私の周りのドイツ人デザイナーにもそんな話を聞いた人はいない。変だなと思っていました。

私の友人の立野さんが、やはりそのことをおかしいと思って独自に調査した結果をまとめています。 この記事「Rotis の間違った記述」 です。日本で「アイヒャー氏が言った」と思われている話を、ヨーロッパでアイヒャー氏をよく知る人に尋ねた結果が書いてあります。この記事は賞賛に値します。

「言った」とされるものごとを「言ってなかった」と証明するのは難しいんです。一つ前に書いた私のブログ 「ここにもFutura」 でやっていることよりも、はるかに難しい。「ここにもFutura」は、ドイツやイスラエルでは「使われない」はずの書体のことを、「ほら使われてますよ」と実例を見せるから比較的楽です。

Futura の噂が広まったのも、この Rotis についての話も、「書体には宗教性や民族性が深くまとわりついている」のような思い込みがあるからなんでしょうか。そんな「欧米で通用しない『欧文の常識』」が日本では多すぎで、それについては私も見つけたら「違うよ」と言っておこうと思います。

欧文タイポグラフィは、ほんとうは笑って話ができる世界なんです。書体の価値を、出所の怪しい話で下げたり上げたりするより、線の質とかスペーシングとか、そっちに神経を使うほうがいいですよ。
by type_director | 2014-06-22 20:16 | Comments(0)