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カテゴリ:公共サイン・標識・観光案内( 23 )
新潟で見た「注意」の標識

イースター休暇で家族みんなで日本旅行の最中です。私は新潟にいって、ほぼ毎年開催しているお話会をしてきました。

昨年タイミングが合わず開けなかったため、今年は早い時期での開催となりました。会場の北書店には、夜8時の話会の開始1時間前に到着して、店長の佐藤さんに「こういう本を探してるんだけど…」と相談したら、いまは古本でしか手に入らないようなものまで集めてくれて、合計で10冊くらい購入。

話会は、毎度のメンバーも新しい顔ぶれも混じって、デザイナーでない人が半分くらいいる。毎回そうですが、私が一方的にしゃべるのでなくいきなり質問だけの話会。全然デザインに関係のない参加者からも、デザイナーからも、すごく良い質問が出るんです。毎回どんな話になるのかまったくわからない状態で行くわけですが、今年も面白かった。終わったのが夜中を回っていました。私の方でも情報をたくさんもらいました。

翌日は、参加者からいただいた情報をもとに、カメラを持って市内の沼垂(ぬったり)四つ角へ。目的は、この角にもう数十年は置いてあると思われる手作り感のある「注意」の標識。

えっ、ここか!というようなところに置いてあった。

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上がアーケードなので薄暗くなって気づかなかったと思うんだけど、高校の時、何百回とここをバスで通り過ぎているはずだし、歩いて脇を通ったこともあるのに。

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しっかりとした楷書体で書いてある。反対側に回ると、右側には「徐行」の字が見える。

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この標識はたぶん、信号のなかった時代に交差点の真ん中に置いて使ったんでしょう。新潟に来る前に見ていた、昔の古町のこの写真みたいに。古町のは移動が簡単なように台車がついてる。両方に共通するのは、楷書体で書かれていたという点。古町のは「STOP」さえもが楷書体っぽい。

そういえば、昔の標識の資料で、楷書体を使った図を見たことがある。こういう標識というのは、丸ゴシックに統一される前は楷書体で書かれるのが普通だったのかもしれない。




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by type_director | 2017-04-09 15:11 | 公共サイン・標識・観光案内 | Comments(0)
公共サインについて感じること(4)ドイツと日本の「止まれ」標識

私が日本出張からドイツに戻った3月1日、良いタイミングで長男が学校の図書館で廃棄処分になったこの「私たちと道路交通」というタイトルの本(1965年)をもらってきました。

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昔はドイツでも「止まれ」はドイツ語で HALT と書かれていました。標識の形は逆三角形。日本とドイツ、逆三角形でつながっていた。

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私の本『まちモジ』でも書いたように、昔は日本の「止まれ」標識の形は八角形で、「STOP」の文字も日本語の下に書かれていました。昭和38年(1963年)に逆三角形の形に変更になったのは、ドイツで採用されていたこの形の方が視認性が高いと判断されたからということです。

それで、週末は長男といっしょに、この本やウェブでドイツの「止まれ」の標識のことを調べていました。

ドイツの「止まれ」標識。昔のものから現在のものまで。

各国の「止まれ」標識

1968年の Wiener Übereinkommen über Straßenverkehrszeichen (道路標識および信号に関するウィーン条約)で、「止まれ」標識は赤の八角形(B2a)ともう一つの案(B2b)が採択されて、西ドイツでは1971年3月1日に、B2a 案である赤の八角形の「STOP」つまり現在の形になっています。






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by type_director | 2017-03-07 19:12 | 公共サイン・標識・観光案内 | Comments(0)
各国の「止まれ」の標識を比べてみた

今年は、公共サインについて考えることが多い年でした。公共サインについての大きな講演を二つしています。

まず1月に、日本サインデザイン協会のフォーラムで、日本の公共サインの英文の表記について話す機会をいただき、翻訳家の田代眞理さんといっしょに登壇しました。田代さんは英文表記について、私はデザインの視点からサインの英文の書体の選び方や使い方についてやや辛口の提案をしました。

そして11月には、エコロジー・モビリティ財団の主催する「バリアフリー推進勉強会」で、サインの文字の読みやすさについて、ドイツの新しい DIN1450 規格の考え方と照らし合わせながら日本のサインがまだまだ改良の余地があるという話をしました。そのときのスライド資料の一部がこちらで公開されていますので、興味のある方はどうぞ。(実際の講演では、DIN1450 規格の中身について解説をしましたが、 公開用資料では著作権の関係で割愛している点をご了承ください)

いずれの会も、たくさんの方にきいていただきました。質疑応答のコーナーや懇親会では、普段のデザイン関係の講演ではなかなか出会えないような参加者の方からもたくさんのご質問や励ましのお言葉をいただいて、勉強になりました。

そして今年の12月には、日本の「止まれ」「徐行」の標識が英文の入ったものに変更されるという知らせが入ってきました。この記事の図を見ると、左右をやたらに詰めたがる日本の公共サインのクセがここでも出てしまっています。左右を詰めてその結果タテの線がヨコよりも細くなっちゃう。

比較しやすいように図を転載します。

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このやり方って、「高さ」だけ必死でクリアして、実際の読みやすさのことは考えられていない気がするんです。「上げ底英文」とでも言ったら良いでしょうか。

さて、私が写真で集めている各国の「止まれ」の標識を比べてみましょう。一部は、私の本『まちモジ』(グラフィック社)の中でも取り上げています。

これは2点とも私の住んでいるドイツ。
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左・右の順で、イタリアとスペイン。
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フランスとルクセンブルク。
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イギリスとオランダ。イギリスの例はロンドンで、後ろに赤いバスが走っています。イギリス在住のカリグラファー、橋口さんに撮ってもらいました。
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ベルギーとトルコ。トルコ語の「止まれ」です。でも赤の八角形は他の国と共通。
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2点ともアメリカ。左はミルウォーキー、右はニューオーリンズ。
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ここでご覧いただいたとおり、アルファベットを普段から使っている国では、縦長の字形を使っていても、タテ線が細くなっちゃうような過ちは犯していないことに気づかれると思います。この件は前から気になっていて、ブログではこちらに、また「バリアフリー推進勉強会」の公開資料でも細かいことを書いています。





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by type_director | 2016-12-31 10:00 | 公共サイン・標識・観光案内 | Comments(1)
公共サイン、道路の名前に合わせて長さを調整できる枠
昨日は小雨の降る寒い一日でしたが、一年ぶりくらいにフランクフルトの南側をちょっと歩いてきました。

前にこの記事で書いた、道路名の表示の「中途半端な長さでも対応できるように長さを調整できる枠」の使用例に出会うことができました。
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径の違うパイプを使った2つのU字型の枠を組み合わせているわけです。専門業者のサイトではこの形式の枠に Teleskoprahmen つまり望遠鏡式取り付け枠という名前がついています。

クリスマスの飾りもいっしょに。
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by type_director | 2016-12-23 11:02 | 公共サイン・標識・観光案内 | Comments(1)
欧文の読み方のメカニズム:単語の塊で読む(2)

ひと文字単位で考えるのでなく文字を組んで単語になった状態、つまり集合体としたときに読みやすいようにつくられているのが、文章を組むための欧文書体です。小文字 d や y などの上下の飛び出しと同じように、すごく大事なことなのに日本ではあんまり気にされていないのが、文字と文字との間のリズム感です。

日本語フォントに含まれるローマ字のデザインには、1文字1マスの日本語に合わせて等幅に m も i も正方形の一文字分につくった「全角英字」が備わっています。それとは別に、フォントによっては、全角の半分のスペースに収まる等幅の「半角英字」や字形に合わせた字幅を持った(プロポーショナル)英字が入っています。

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英文などの文章を読むときには、ひとつひとつの文字の形だけでなく、リズム感も大事です。日本語は1文字1マスが基本ですが、欧文のアルファベットは文字の形によって幅が変わります。画数の多い M m などの文字は左右に広く、I (大文字アイ)や i など縦線一本の文字は狭くつくります。

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左から右へ読むときの縦線の間隔に一定のリズムがあって単語の途中で大きな空間をつくらないほうが読みやすいので、mm とふたつ並んだときの縦線の間も ii の間もだいたい同じリズム感に設定します。

残念ながら、そういったリズム感無視の例が、東京の真ん中でもゴロゴロあります。新宿の東京都庁の周りをぐるっと回ったときに気づいたものでは、こんな例が。

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そしてこれは避難場所の情報です。けっこう大事な情報だと思う。


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「neighboring」とかリズム感がすごいことになってます。試しに、MSゴシックの半角英字を使って同じ単語を組んでみた。おんなじだ。

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この違和感、どう伝えれば良いでしょう。

この単語は、同じ掲示板の日本語部分の「近隣」にあたります。英文ではその単語の輪郭がガタガタになっているんだから、漢字の単語に置き換えてみます。リズム感の悪さをビジュアル的に置き換えると…

辶斤阝粦

ですね。欧文のひとつひとつの文字は、単語をつくるパーツです。「パーツごとにわかる=すらすら読める」、と思ったら大間違いです。

どこか日本以外の国で、日本語でのメッセージが「辶斤阝粦」って書かれていたらどう感じますか? 

ちなみに、ちゃんとしたリズム感の書体 Neue Frutiger は、こんな感じです。

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by type_director | 2016-10-01 23:11 | 公共サイン・標識・観光案内 | Comments(0)
欧文の読み方のメカニズム:単語の塊で読む(1)

日本のなかでも、注意書きに英語が添えてある例が増えてきました。

でも、なんとなくギクシャクして読みづらい。綴りは間違っていないのに、一瞬考えないと伝わらない。途中で読みたくなくなってしまう。そんな欧文のサイン表示や注意書き、けっこう多いんです。欧文の読まれ方のメカニズムを知っていれば避けられるミスなんです。


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写真の「Emergency」や「stop」、小文字 g や y、p を切り詰めた形なので読みにくいですね。日本語フォントに含まれるローマ字の典型的なデザインです。

電光掲示板の英字にもなかなかスゴイものが。

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これはデジタルフォントとは違うでしょうが、英字の情報を見る人にとっては、だれがつくっているかとか、アウトライン表示かドットなのかは関係ないですからね。ここでも g や y がかわいそうなことに。

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たいていの日本語フォントに含まれるローマ字は、小文字の g や y などの下に飛び出る部分を極端に短くしているなど、本来のバランスを大きく変えたものが多いです。つまり、それで英語などの単語や文章を組んだら読みづらい。

でも、公共サインや注意書きで英字で文章を付け加えるのは、当然ですが、英語で書かれた情報のほうが日本語よりもわかりやすいという人たちのため。

英字で組まれた文章を読む人は、一文字ずつ識別していくのではなく単語の輪郭の形を瞬時に認識して読むといわれています。そのさいに、単語の大まかな形を特徴づける小文字の d や y などの上下に飛び出る部分は、読み取るきっかけとして必要です。

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上の例は、読みやすさで定評のある欧文書体 Frutiger の改良版、Neue Frutiger です。 小文字 y などの下に出る部分のほどよい飛び出し方に加えて、自然な字形と適切な文字間が読みやすさにつながっています。こちらのブログで書いたように、成田空港第3ターミナルでも使われているフォントです。

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この「Departures」の p と、一番上の写真の「stop」の p と比べてみてください。こっちのは安心感が違う。













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by type_director | 2016-10-01 21:30 | 公共サイン・標識・観光案内 | Comments(0)
情報を詰め込んだ結果は
観光客目線の記事を続けます。こんどは東京で見かけた印刷物です。

今年3月に書いたこの記事で、いろんな言語の観光ガイドが増えてきたことを書きました。数年前には聞いたことのなかった「インバウンド需要」という言葉もあちこちで使われています。
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言語によって観光ガイドが色分けされていて、たとえばドイツ語は黄色、フランス語は藤色、タイ語は赤紫色。
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中身はこんなふうです。左ページには地域ごとに分けた地図、右ページにはその地域の名所の案内という構成。
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でも、この見出しからすでに読みにくい。普通の書体の幅を思いっきり狭くしています。
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地図の下には、その地域を効率よく歩けるモデルコースの説明があります。
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これは読みにくい。まず書体の幅をここでも狭くしていて縦線が細くなっているし、一行ごとに字の詰め具合が変わっていてギチギチの行とスカスカの行とがある。

どれくらいの観光客がこれを手にとっているのか知らないけれど、これって役に立っているんだろうか。私だったらこれはすぐに棚に戻してネット等で調べる。東京にはゴミ箱があまりないから、持って来ちゃったらやっかいだ。

公共サインでもそうだったけど、狭い中に押し込めたような例が多すぎると思うんですが。外を歩いても印刷物を見ても縦線の極端に細いサンセリフ体が圧倒的って、なんか息苦しいです。文字のサイズを少し小さくしてもいいから、ゆったりと普通に読めた方が気持ちよく伝わるんじゃないかな?

タイ語版の中身はどうなっているのか見てみたら、モデルコースの説明文は英語だった。タイの人はみんな英語が読めて当たり前という前提なのかな? 
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by type_director | 2016-09-01 10:29 | 公共サイン・標識・観光案内 | Comments(4)
公共サインについて感じること(3)安心感
いま、アメリカのシアトルに来ています。書体デザインのコンファレンス TypeCon に参加しています。シアトルのランドマーク、スペース・ニードル。
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オランダの建築家コールハースの設計による中央図書館。

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当然、ここでも町中のサインが気になります。

中央図書館の前にある案内の標識は、偶然ですが、このシリーズの第一回目でコンデンス体の例としてのせた Neue Helvetica Condensed のファミリー。太さは、Bold よりも一段階細い Medium のウェイトを使っています。

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コンデンス体に必要な視覚調整が施されているので文字のバランスが落ち着いている。「しっかりしている」感があります。
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通行人は、つねに公共サインを見ているわけではないのですが、行き先がこれでいいのかちょっと不安になって方向を確認したいとき、すっと目線を上げてこのデザインの案内が目に入ったら、たぶんすごくホッとすると思う。

そしてこれはもう少し細かい場所案内。
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Frutiger Bold Condensed という、別の書体を使っています。これもちゃんとコンデンス体を使っていて、狭い場所に入れても読みやすい。C や S の巻き込み部分が少なくて明るいのも読みやすさにプラスです。
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実際に移動のときにこの標識を頼りにしていない場合でも、あちこちでこういう標識に出会うと、「この町を歩いていても迷うことはない」という安心感に包まれるんじゃないでしょうか。そういう移動のサポート役が、ちゃんとオフィシャルな感じを持ってどっしり構えているのって大事です。


世界中を飛び回っているライターの渡部さんが、こちらのブログでアジアの都市での動き回りやすさの比較をしています。公共交通のサインのことについても言及しています。評価高めなのはシンガポール。




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by type_director | 2016-08-28 12:02 | 公共サイン・標識・観光案内 | Comments(2)
公共サインについて感じること(2)情報をそのまま届けること

前の記事では、日本のサインで左右を縮めて無理矢理おさめてしまった例を見ました。では、ドイツでは長い単語や名前をサインや標識にするときにどうしているんでしょうか。


ドイツでは、日本と違って交差点の名前が信号の脇についていることは普通ありません。よく見かけるのは、道路名の標識です。すべての道路に名前が付いているからです。ドイツには長い道路名があるので、コンデンス体が一般的です。最初から縦長の字形でコンパクトに収まるように設計されている書体です。


これらは標準的な長さの道路名。

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長い道路名も、短い道路名もあります。


これは長いのと短いのが一本のポールに取り付けられた例。

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裏側に回ってみました。文字が書いていない側です。そうすると、プレートを固定する枠の存在がよりハッキリ見えてきます。

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当然ですが、プレートの部分だけではなくて枠も表示用の板にあわせて長い枠がある。プレートの長さが先に決まっているのでなく、情報の量にあわせてプレートも枠も変えるという考え方です。


ドイツでは、そして私の見てきた多くの西洋諸国では、情報を読み手に届けることが最優先。


ある量を持った情報を、一定の高さの文字で表示する。文字はもともとコンパクトに設計された書体をそのまま使う。そのとき、情報を途中でよけいな変形をさせずにそのまま伝えようとすると、ある長さが必要になる。だからそれに見合った長さを選ぶ。道路名の長さだっていろいろあるから適した枠を選ぶのは大変だろうけど、肝心の情報つまり文字の形をゆがめるという発想はない。


枠の長さは何段階かあるんでしょう。さらに、中途半端な長さでも対応できるように長さを調整できる枠まであります。標識とその取り付け器具の製造業者のサイトから転載します。(引用元サイトはこちら

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つまり、情報がそのままの形で届くよう、周りがちゃんとフォローする。そういう仕組みが整っている。


こういう文化で育った人の目に、日本の多くの英文サインで無理矢理つめこんだ例はどう映るでしょうか。情報を届けることが優先されているように見えるでしょうか。




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by type_director | 2016-08-21 03:57 | 公共サイン・標識・観光案内 | Comments(2)
公共サインについて感じること(1)縦線は横線より太くつくる、が欧文デザインの基本

去年と今年は、日本に出張が多いので日本でも道路の交通標識や案内標識を中心にいろいろ写真を撮ってきています。ドイツの標識の例と比べると、わかってきたことがあるので、何回かに分けて書いてみようと思います。

まず、欧文サンセリフ体のデザインの基本について説明します。これは全く同じ太さの縦線と横線でつくった T。
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縦線が細く見えて、なんか落ち着きません。横線と縦線とを数値的にまったく同じ太さにしても、目の錯覚のせいで縦が細く見えてしまうんです。

なので、縦線のほうをちょっと太くすると落ち着きます。これは代表的なサンセリフ書体 Neue Helvetica Bold
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たいていのサンセリフ体と同じく、そういう調整がちゃんとされています。
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逆に、縦線をさらに細くした場合は、支えきれないような感じに見えてしまいます。
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仮に、「あえて縦線が細いという新しいコンセプトのサンセリフ体」とかいって、そのTをベースにこんなのをつくったとしたら…
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実際はこれは Neue Helvetica Bold を左右方向に思いきり縮めたものですが、落ち着かないという感覚的なことだけではなく、機能的にも良くない。標識など公共サインは、斜めから見られることも多いわけですが、ただでさえ細い縦線を斜めから見たら、もっと細く見えてしまいます。こんな縦画の細い書体が最初からあったとして、少なくともこれで長めの単語や文章は組めない、と判断されるのが普通だと思います。まして公共サインの書体として選ばれることはないでしょう。


でも、東京で見つけた英文のサインは、そんな変なバランスのものが多い。決められた幅に長い名前を入れようと左右を縮めて無理矢理押し込めている。これをやっちゃうと、縦線が極端に細くなる。結果として、真っ正面から読んでも読みにくいです。

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狭くなったうえに、文字と文字との間がリズム感を無視して詰められているのもあります。これは JR 渋谷駅付近で。
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Helvetica のようなポピュラーな書体は、バリエーションが豊富です。狭い場所に収める場合を考えて、書体ファミリーの中にコンデンス体(字幅が狭いバージョン)も持っていることが多いです。


これはそういう書体の一つ、 Neue Helvetica Bold Condensed。縦線は横線より太くつくる、という原則をきっちり守っているので、字の幅が狭くなっても落ち着いて読むことができます。

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さらに注意深く見ると、O は少し四隅を張って小判型になるように調整されています。コンパクトにしながらも真ん中のアキを大きめに見せてバランスをとったわけです。単に幅を縮めただけじゃない。幅の限られた場所でもしっかり読めるように、デザイナーの知恵と工夫がこの狭いデザインの中に詰め込まれているんです。


ここであげた東京の例は、いずれもそういう書体を使わないで左右を縮めているだけ。読みにくいし、いかにも「とりあえずつくった適当な間に合わせ」感が出て安っぽくなります。狭い場所にふさわしい書体を選んで使えば、英語の情報が頼りの人たちも助かるのに。そんなことを考えてしまいます。











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by type_director | 2016-08-17 04:01 | 公共サイン・標識・観光案内 | Comments(0)