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Gill Sans について
7月31日の記事「紙博物館で見つけた書体カード」で、こういうことを書きました。

日本でささやかれている都市伝説「ヘルベチカはスイスを感じさせる書体」とか、「どこそこの国ではあの書体は使えない」ってのもぜんぜん違いますからね(略)。

そうしたら、このブログの読者でロンドンでグラフィックデザイナーをしている Shoko A さんからコメントをいただき、数回のやりとりをしました。その内容が面白かったので、編集無しでそのまま載せることにします。Shoko A さんには許可をいただきました。Shoko A さん、ありがとうございます!

コメント紹介の前に、まず Gill Sans (ギル・サンズ)について簡単な説明を。

1930 年前後にイギリスのモノタイプ社が出して以来、人気の衰えないサンセリフ体です。デザイナーは石碑や彫刻も彫ったイギリスの有名な芸術家エリック・ギルで、彼はこの他にもいくつか活字をデザインしています。Gill Sans は、ギルがある店のために描いた堂々とした大文字の看板がベースになったと言われています。
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では、ここからやりとりになります。


Shoko A :
「どこそこの国では使えない」なんてことはないですよね。FuturaやBodoniなんて特にどこの国でもいっぱい見かけます。ただGill Sansだけはどうしてもすっごいイギリスっぽいって思うんですけど、どうでしょう?やっぱりペンギン(注)のせいでしょうかね? イギリスのデザイナーもそこを意識して、イギリス的な内容のプロジェクトのときにここぞと使ってますよ。
(注:ペンギン・ブックスというペーパーバックの書籍シリーズ。表紙に Gill Sans を使っていました。)


小林:
Shoko A さんはもうご存じだからこんな説明しなくてもいいと思いますが、ちょっと補足させてください。

みなさん、上のコメントを読んで「イギリスなら何でも Gill Sans 使っておけば間違いない」みたいに勘違いしないでくださいね。

確かにイギリスでは Gill Sans はよく使われていますが、書籍の本文とかキャバレーの看板まで何でもっていうわけじゃないんですよ。Gill Sans を選ぶときに、「すっきりしたサンセリフ体」「読みやすい」「大文字が碑文のような堂々とした感じ」「見慣れていて親しみがある」みたいな要素が求められていて、そこでいくつかの候補から Gill Sans が選ばれる、というようなことだってあるはず。

どこの国でつくられた、みたいなことは最優先の条件じゃないんです。機能や見た目で選んでいる、っていうことをお忘れ無く。イギリスの書籍の本文が Garamond だったりすることもあるし、イギリスのキャバレーが必ずしも Gill Sans じゃあない。タイポグラフィって「イギリス= Gill Sans 」みたいに簡単じゃないですよ。


Shoko A :
おっしゃる通りです。説明が足りなくて誤解を招くようなコメントになってしまい、失礼しました!

もちろん「イギリス= Gill Sans」みたいに簡単ではないです。例えばDerek BirdsallとJohn MorganデサインのCommon Worship Book(教会での祈禱書)に使われているGill Sansは、イギリスらしさを意識した選択ですが、プロジェクトの初期には別の書体(Universe, Bell, News Gothic)も試した上で、識別性や、文の構造との相性、ボールド、イタリック体とレギュラー体の関係などいろいろ考慮した結果、Gill Sansが一番適していると判断した上での選択だそうです。

どこの国で作られたっていうのは、ほとんどの場合書体を選ぶ理由にならないです。見た目の印象はもちろん、キャラクターセット、スペース効率、二種類以上の書体を使わなくてはならない場合その相性など、書体を選ぶ上でもっと大切なことは沢山あります。

どの書体がいつの時代にどの国でどういう背景でもって生まれたかなんて、ヨーロッパ人のグラフィックデザイナーでもけっこうあやふやな人がいっぱいなのが現状ですよね。かえって、下手に知識がない方がいい判断ができることもあるのかもしれません。


小林:
Shoko A さん、細かいフォローを有り難うございます! やっぱりわかってましたね。

じつは日本の人からよく「学校で書体の出自が大事だと習いました」って聞くので、それは全然違うよってハッキリ言っておく必要があると思って。


コメントのやりとりは以上です。


ところで、先日フランスに行ってきました。フランスのツーリストインフォメーションは Gill Sans でした。
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これは銀行の ATM 。これは Bold Italic ですね。
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Gill Sans って、こんなふうにフランスで見るとフランスになじむんです。違和感がない。なんか、役者さんで、その役柄になりきることができる人っていますよね。演じている本人でなく、その劇の中の人がそこに実際にいるみたいな。

そういう書体が長く生き残るんじゃないでしょうか。
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by type_director | 2010-08-12 06:51 | 書体が特定の国の雰囲気? | Comments(5)
Commented by mas at 2010-08-13 14:42 x
Gill Sansは、イギリスだけでなくいろいろな国のお菓子の説明書きでよく見かける気がします。どうしてだろう?と思っていたのですが、Shoko_Aさんの祈祷書のお話のように、識別性、可読性の問題で使われるのかもしれませんね。細かい文字で、時にはコンデンスを使ってびっしり記されたりしていますから。
Commented by Shoko at 2010-08-17 02:11 x
役者さんの例え、うまいですねー。すごく言い得てると思います。 

当たり前のことを書いてすみませんが、書体はデザインのとても重要なエレメントですけど、他のエレメントである色や形、構成などの仕方、そしてもちろんおかれている環境によって、印象をかなり変えることができますよね。役者さんとたとえを使わせてもらうと、同じ役者さんでも、違う筋の芝居を、全くちがう衣装、演出で演じれば、全然違った人に見える、みたいな。

改めてやりとりを読み直してみて、Gill Sansがイギリスっぽいというより、Gill Sansにイギリス人のデザイナーはちょっと思い入れがあるって言った方が正しかったと気づきました。出自がどうこうというより、Penguin BooksやBBCなど、全国的に国民に親しまれているものに長年使われているせいで、他の書体より特別なステイタスを得ていると思います。だからといって、デザイナー以外の人がどこまで気づいて見ているのかは疑問なんですけど...。
Commented at 2010-08-17 02:22 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by type_director at 2010-08-17 05:14
mas さん、お菓子の説明書きねー。ちょっと気づかなかった。8月17日の記事のうち、フランスで衝動買いしたチョコレートの裏側の原料の表示には Futura が使われていましたが、他は Gill Sans 、もうひとつ別のサンセリフ体(よく分からなかった)が使われていました。写真で見える部分では、上のほうの白ヌキの部分は Gill Sans Bold Italic でした。
Commented by type_director at 2010-08-17 05:17
Shoko さん、ご心配なく。この記事を読んだ人ならばもう誤解はしないでしょう。役者の例え、分かっていただけて嬉しいです!